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Pickup Artist ピックアップアーティスト

おかもとなおこ
撮影:小松麻衣

実に穏やかで才女のイメージさえ漂う女性ドラマー。目立ちたがり屋さんではなく淡々とリズムを支えて、ふわりと場を和ませてくれる、不思議な力と安心感を与えてくれる人。
しかし、彼女はなぜかドラマーとしても人としても、誰も経験しないようなことを乗り越えて今に至る。それにより只者ではないというか、不思議に輝くオーラを持っているのです。
「つばき」のドラマーとして2005年にメジャーデビュー。すでに02年ごろからインディーズ界ではかなり名の知れた存在だった。ほどなくVo.Gu一色徳保と恋仲になり活動も順風満帆と見えたが、2010年に一色の脳腫瘍が発病。残念ながら17年には帰らぬ人となってしまった。
辛い中で彼女と一色を支えていたのが、「つばきフレンズ」となる音楽仲間たちだった。そこには無償の愛。そしてかけがえのない時間と経験があったでしょう。
活動面ではDQSというドラムを最大12台並べる過酷なバンドのメンバー。さらにサポートドラマーとしても数多くの仕事をこなし、多忙な日々をすごしている。そんな彼女に少し話を聞いてみました。

つばき

Q:まずは最初に音楽に触れたころの話を聞かせてください。

最初に音楽に触れたのは中学の吹奏楽部でパーカッションでした。吹奏楽部ではトランペットをやりたかったんですが、渋々パーカッションでした。そんなころに中学校にもバンドやろうとしている人がいて、ドラマーがいなくて文化祭に借り出されたりしていました。
吹奏楽部ではクラシックというより、ブラスバンドですね。ポピュラーソングをやることが多くで、そんな時にはドラムを使うことが多くて、ドラムになりたい人がいなかったんです。それで私が…。
特にドラムがやりたいわけではなかったんですが、学校にバンドを組みたい男の子たちがいて、「ドラムやれるよね?」といわれて…。
私自身はバンドを自分で組むような自主性はなかったんで、みんなのお願いに答える形でドラムやりだしてました。

Q:地元は広島ですよね。出身バンドの影響は?

中学時代はユニコーンとかが好きでしたが、広島とはいえ活躍している先輩の話すら聞こえないくらい田舎でした。テレビは見てたけどそれの影響はなくて。
吹奏楽も日々練習のみ特に何事もなく時間が過ぎていく感じだったんですが、あるとき「ヤマハのドラムスクールにいってみれば?」と友達に言われてレッスンに通うことになるんですけど、そうしているうちに叩くことが面白くなり、音楽により傾倒していきましたね。
そんな頃に洋楽、特に「ジャニス・ジョプリン」を友達に借りてから、ぐっと入り込んでいくことになりました。
たまたま英語の先生もジャニスが好きで、ジャニスはよく聞いていました。
バンドは長続きするものがなく、やりたかったんですけど、音楽性に欲が出て…そうなると合う人がいなかったんですかね。

おかもとなおこ
撮影:小松麻衣

Q:高校時代は?

高校生になると先輩がやっているバンドを見に行ったり、親がドラムセットを買ってくれたり、環境には恵まれてたと思うんですけど、でも同級生と比べても自分が上手いとは思えなかったです。
それでもやりたい欲は増えてきて大学進学は選ばず、音楽をするためにESP音楽専門学校にいこうと思って。やっとそこで思うようなバンドを組んで、女性ボーカル、ギターとベースは男の子で、わたしがドラムというありがちな…。
ライブハウスで演りだしたのもこの頃ですけど、卒業と同時に解散してしまい、色々入れるバンドを探してたんですけど中々見つからず。そのちょっと後に友達が「つばき」がドラマーを募集している事を教えてくれて、Queに見に行くことになるんです。

Q:普通にOLとかも出来そうなのに、バンドマンになるのは覚悟がいったのでは?

そうですね、でも30歳までは好きなことを無我夢中にやってみたいという思いがあって。

おかもとなおこ
撮影:平沼久奈

Q:ドラマーをやっていくなかで、周囲のミュージシャンとの格差は感じた?

差はあんまりなかったというか、それほど急にうまくいった人もいるようには思えなかったというか、最初はCD出せたりしたらいいなという「フワッ」とした願望しかなくて、でもフワッとしたまま数え切れないくらいのバンドでドラムを叩くことになったり。
不思議ですね。今はスネオヘアーさんからユーチューバーのバックなんか、色んなとこでドラム叩かせてもらってます。

Q:あんまりいないタイプですけど、自分の何が受けてると思いますか?

歌に寄り添えるドラマー(笑) 自分で歌うのは嫌なんですけど、歌を支えるのが好きかな。

Q:確かになおちゃんのスタイルは「私のドラムを聴け!」系ではないですね。そういうアンサンブル系ドラマーというか女性ならではの「支えるドラム」の先駆者でしょ。それに仕事としてミュージシャン業のアピールを貪欲にしているわけでもないけど、皆に愛されていろんな所で叩いてますね。

DQSで言うと高橋さん(高橋浩司exPEALOUT/HARISS)はバックビートの感じやプレイスタイルが確立されていて…。私は突出するものがなくてそういうのに憧れはあります。聞けば誰が叩いているか分かるようなドラムプレイには憧れますけど、満遍なく広く浅く、ひとつのジャンルに対して固執がないというか、バンドの皆と一緒に演奏するのが好きなだけなんだと思います。
DQSに参加して思ったのは、みんな本当にドラムが好きな人たちの集団で、特に男性たちはドラムというかパーツにに詳しい。プラモデルみたいに楽しんでますよね。何を聞いても答えてくれるし、拘りが凄いというか…。それで私そこまでドラムが好きじゃないのかなんて思ったりしました(笑)。ドラムキットの話しは完全に負けるというか、私は音楽が好きなだけかもですね。

つばき
撮影:山中善正

Q:そこがいいとこ! では、つばきに加入前後の話を聞いていいですか?

Queに初めて見に行った時に、もうメロディが好きでこのバンドに入ろうと思いました。曲もしっかり覚えられて、なにしろ歌がすごいなと。
入ってみたらとんとん拍子に、あっという間にレコーディングになって、それが終わったらすぐにワンマンがあって。そんなにライブハウスという場所のことも知らないしそこまでやってきていないので「そんなもんかな?」バンドってこういうものなんだと思ってました。

Q:最初は少なかったお客さんも増えていきますよね。

よく一色と話してたのはメジャーデビューした頃、彼は「もっと上に行ける、行こう!」って言ってました。私は楽観的というか、心配してなかったというか…。そういうことはあんまり考えていなかったんですけど。

Q:一色くんどんな人でしたか?

初めて会ったたときは小川君がすごく気を使ってくれて、逆に一色は凄くだるそうで、私の話なんか聞いていないようなそぶりで愛想悪かったです。THEバンドマン。THEボーカルって感じでしたけど、入ってみたら結構イメージ変わって気遣いの人でした。小川君のほうが実はクールで。
一色が病気になる1年位前に初めてお仕事いただいて、メンバーが快く行かせてくれたのは有難かったです。

つばき

Q:そして…聞きにくいけど… 二人は恋人仲になっていきますよね。

そうですね。はい。付き合っていました。

Q:まさかの病気…。バンドのドラマーとしてだけでなくて、一色君を支えていくようになるわけじゃないですか。

入院する1年位前に、指が動き辛いというか…、ギターソロなんかのミスが多くなって「腱鞘炎かな?」なんて言ってました。今まで弾けてたフレーズができなくなってきて、
私たちは「練習不足じゃない?」なんて言ってましたけど…。ライブでもミスが増えてきて…。それで病院に行ったんです。整形外科とかでなく脳外科にいったら、脳腫瘍が発覚して…。
レントゲンを見たお医者さんがで、神経に腫瘍がまとわりついてて、これでなぜ歩けるのか不思議だと言ってたのを覚えています。それでもギターも弾くし…。音楽の力ですかね?

Q:辛かったね…。

メンバーとしても彼女としても自分に余裕があるわけでもなくて…。支えていくというよりは、病気が事実になってやること考えることも難しくて。でもすぐに海北くん(LOST IN TIME)や小高くん(LUNKHEAD)や千香ちゃん(FREENOTE)たちが、演奏できなくなったときに支えてくれて、皆が言うだけじゃなくて行動してくれて、演奏してくれて。今思えばそれが大きな救いでしたね。
本人も言ってました。手術後に左半身が麻痺になって、音楽のことまで考えが及ばなくなった時に、みんながつばきフレンズとして演奏してくれることで、一色も「やんなきゃ! 頑張んなきゃなっ!」って、そんな気持ちになってました。

つばき

Q:キャプテンズの傷彦くんも近い病気で同じ病室にいたんでしょう?

そうですね、一時ですけど、はい。彼は治って本当によかったですね。

Q:ステージからではいえないメッセージ…

周りに感謝することが多くなりました。ピンチのときほど周りの皆に感謝するというか、一色もよく「俺はラッキーだ。ダメだと思うときに助けてくれる仲間がいる」って言ってましたよ…。時間が解決するとも。

Q:凄い…。というか、俺も呼吸のお手伝いさせてもらいに行った時に、本当にみんなの愛と力というか人の生の凄さ、有難さ、たくさん教えてもらいました。一色くんには心から感謝です。
話し、変えましょうか…。DQS、一瞬「終わるか?」と思いきや終わらないじゃないですか? よい変化が起きてるんじゃなですか?

まさか創始者のけケンさん(溝渕健一郎)が卒業になるとは思ってもみなかったですが、それでも崩れなかったのは、ギターのテッペイさんの吸引力。DQSに対するモチベーションがとても高いんです。あの時、新曲もすごい勢いで数多く書いて送ってきて、テッペイさんなりの価値観や音楽だけじゃないセットリストや、ショウとして観せ方にもいろんな意見を持って、それでいて調和を取っていく為にいつも色々考えてますよ。

DQS
撮影:山中善正

Q:調和と統率は難しいよね。

そうですねこれだけ人数がいると、そういう部分がないと纏まらないですすよね。やりたいことを突き詰めれば弊害や障害は増えますけど、そのおかげでDQSもフレキシブルに対バンができるようになったり。

Q:フレキシブルにできるってものちょっと…あれですけど(笑)

そうですね(笑)。
今いるメンバーはもう何代目かわからないですけど、私も最初からいるわけではないですけど、一番最初が一番大変だったんでしょうね。この形にするまで、前例も形もないですから、それが出来上がるまでが大変だったんじゃないですか?

Q:DQSが始まったきっかけは、実はある日の打ち上げで、俺がドラムがたくさん並んでるのが見たい! と色んなドラマーに言ってて、それで手を上げたのが健ちゃんだったんだけど、だから俺も責任凄くあって、ちゃんとした縮尺の図面を作って、同縮尺のドラムセット作って、いろんなセット図を何十種類も作ったんだよ(笑)。

設計士ですね。

DQSセット図
DQSセット図

Q:そうね(笑)。で、だんだん皆賢くなってシンバルを共有したり、タムを共有したりで、台数の割には少しコンパクトになってますよね。

そうですね。ブラスバンド出身の森さん、愛子ちゃん達がいて、そういう経験があって纏まれるというか、団体行動慣れしてるといいますか。
とにかくDQSに入ると普通のドラマーのこだわりを一回捨てなければいけないです。他人のセッティングでもたたかなければいけないし、ドラマーとしても人としても鍛えられますね。

DQS
撮影:山中善正

Q:ドラマーとしての展望は?

あんまりないです。おばあちゃんになっても叩けてればいいですね。

Q:きっと出来ます。なおちゃんは絶対出来る気がする。しかし今回の誕生際はまさかの前代未聞のイベントになりましたね。

40歳ですし「何時までできるのかな?」って。お世話になった皆へお礼もしたいし、お客さんにも色んなものを見てほしい。つばき好きの人にもDQSも見てほしいし、私の全部を見てほしいなって思いました。

Q:平凡そうで、まったく平凡じゃないというか、皆が経験できないことたくさんしてますね。 タフ?

体力はあるとおもうけど、精神的にはそれほど強くはないと思います。実際、私より一色のほうが大変でしたし…。

Q:んん~そう思えることが強さですよ。思考の強さって、そのまま人間性のような気がしますね。楽天的と一言では言い表せない、静かで強力なエネルギーを持つのがおかもとなおこ。

そうですか(笑)ありがとうございます。

Q:いやいや、本当にこちらこそありがとうございます。そして4月18日誕生日ライブですね。沢山おめでとうしましょう! よろしくお願いします!

よろしくお願いします。

DQS
撮影:山中善正
DQS
撮影:山中善正
DQS
撮影:山中善正
おかもとなおこ
撮影:小川舞

<あとがき>
「私が一番大変じゃない」と思えること…思い続けることはもしかしたら努力かもしれない。それが周囲を明るくし、人を喜ばせたり勇気付けたりする事になっている。彼女のぼくとつで欲のない向上心。いわゆるよく在りがちなロックミュージシャンの粗暴さや人としての欠如。その要素を感じがないことに、彼女のロックミュージシャンとしての突然変異的な才能があるように見える。彼女の感覚は、自分だけが大変と思っている今の日本人にとってとても重要なことなんじゃないだろうか。彼女の音楽はそこでも鳴続くと思う。
こんな経験をした「おかもとなおこ」にこそ、人に伝えるもの、音でも文章でも色んな表現方法でやり続けてほしいと思った。
インタビュー・文責:二位徳裕

2019/4/18
THE 四半世紀 Que25th【QueRTER PARTY】
"正夢になった夜~おかもとなおこ生誕祭~"

つばきフレンズ [小川博永、おかもとなおこ、小高芳太朗・山下 壮(LUNKHEAD)、海北大輔(LOST IN TIME)、岩崎慧(セカイイチ)、秦千香子(ex.FREENOTE)、曽根巧]
菅原龍平/DQS/佐々木健太郎×EG×おかもとなおこ

OPEN 18:30/START 19:00 ADV.¥3,800/DOOR.¥4,300 [1D別]
ぴあ [140-229]・LAWSON [71371]・イープラス [http://urx.blue/ZLla] 発売中

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