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2008.1.14
「都会の迷子さん vol.3 ~新春編~」
タテタカコ/三輪二郎といまから山のぼり/石橋英子×アチコ/GELLERS/松倉如子(伴奏:渡辺勝)

冷たく張りつめた真冬の空気をかきわけながらZher the ZOOに向かい、会場に足を踏み入れた瞬間、 ふわっとゆるやかな優しい空気に変わったことを肌で感じた。 本日の主催者であり、DJも務める佐藤氏の癒し系の選曲にのせられて、 自然と観客たちもゆったりした気持ちになったのか、和気藹々としたムードが 会場いっぱいに漂っていたのだった。 そんな好い雰囲気の中、ステージに最初に登場したのは「松倉如子(伴奏:渡辺勝)」だ。 原色を使ったレトロなロングドレスをまとった松倉と、 絵の中から飛び出してきたような壮年紳士の渡辺勝。 存在感と不思議な妖しさを放つ二人がステージに立っただけで 「何が始まるのだろう」と惹きつけられる。 松倉如子の澄んでいてうねりのある声が、思いを乗せて次々に溢れ出してくる。 憂いのある丸い瞳を開いて「ねえ/言葉でしゃべったら/今以上に伝わるものかしら?」と 歌い出したその一節とその彼女の佇まいが、言いようのない大きなものを内包して伝えていた。 バイオリンとギターを持ち替えて奏でる渡辺勝の音は、松倉の歌や気持ちに寄り添うように 生き生きと響いていた。朱色のライトの中で空気を震わす二人の音は、 神聖なものとさえ思えるほどピュアでまっすぐだった。 次は「GELLERS」。パラパラっとしたクリーンギター、乾いたドラムの音、 輪郭がはっきりしたうねるベース…はっぴいえんど等を彷彿とさせる懐かしくて メロディアスなバンドサウンド。電子音なども使っていたので、 いろんなところに音がある感じがして祭囃子のようでもあった。 そんな祭囃子に「ギャーっ!!」と衝動をこめた曲たちは激しさと少しの愉快さを含んでいて 見応えたっぷりだ。人間のいびつさをこめた、きれいにまとまりすぎていない曲たちだからこそ 聴きたくなるのだな!!と強く感じさせる。3番目は「石橋英子×アチコ」。 伸びやかでキラキラしたアチコの声は、かなりの音程の高低差があっても 難なくスルスルと出てくる。本当に楽しそうに歌詞をかみしめて歌うアチコと、 それを確実に支えるピアノ・石橋英子の二人。 自然現象の繊細な質感や、微妙な心情を言葉と音で表していた。 マッシュルームカット風の二人の髪がスポットライトに映えて美しく、 ステージをよりいっそう素敵に演出していた。 そして次は「三輪二郎と今から山のぼり」。踊るようにふんわりと叩く情緒的なドラム、 さりげないようでいて存在感と色気のある轟渚による丁寧なベース、 味わい深く響く二胡と三輪二郎のギターで奏でるサウンドは大切に紡ぎ出される。 デリケートなのに芯がしっかりあって壊れることなく続いていく演奏。 そこに三輪二郎のストレートで朴とつとした歌声で「もっと遠くまで歩いてみるさ」 「君と歩くよ野毛山」などのほほえましい等身大の歌詞を乗せ、笑顔と希望を与えてくれる。 特に最後の曲「今から山のぼり」でのメンバー全員による「クライミンク ライミン マウンテン♪」 という合唱を観客たちは温かい気持ちで楽しんだ。このあとサブステージで 再び松倉如子と渡辺勝の演奏があった。渡辺勝が歌った「僕のしあわせ」という曲には、 彼の今までの人生や恋や愛や思いや・・・彼の中の宇宙がぎゅっと詰まっていることを感じ、 胸を強く打たれた。そして最後は「タテタカコ」。堂々とステージ中央に置いたピアノで弾き語り。 大きな瞳を見開いてまっすぐ前を見据えて歌う姿と声は研ぎ澄まされていて、 会場全体の空気までもが真空パックにされたようにスーっと澄んだ気がした。 「まだまだまだだよ、まだゆける」「大丈夫、大丈夫」。 「弱さと向き合ってそこからまた前に進むんだよ」というメッセージが たくさんこもった歌たちに、お医者さんのような頼もしさを感じた。 趣深く確かな演奏と深遠な精神性を持った5組に、温かく強い大切な気持ちを 充電させてもらえたライブだった。
[文、菅 真由子/撮影、藤野亜寿香]


松倉如子




石橋英子×アチコ




三輪二郎と今から山のぼり




タテタカコ
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