僕らのミュージック (MV)

※篠塚将行(しの),菅澤智史(ガス),琢磨章悟(しょ),栗原則雄(ノリ),Que 後藤瞬(後藤)の表記で進行します。

 

後藤:そんな気持ちの中、シングルを出しますよね。これはかなり異質だと感じるんです。

しの:そうだよね。

ガス:言われるよね。

後藤:あまりライブでやっている所を観ないですね。

しの:やってないね。当時もやらなくて、よく怒られてたもんね。やったの、リリースした時くらい?

後藤:自分としてはこの曲で明確に『それせかメジャーに行ったんだな』と思えた曲な気がします。

しの:わかるよ。

後藤:いい意味でも悪い意味でもなく、メジャーに行ったそれせか、という曲なんだなと。

しの:もうね…これ…自分の友達の前で言うのもなんだけど、しかも一緒に演奏してる奴らの前で言うのなんだけど…俺

   は、心が折れてたの。

ガス:そうだったんだ(笑)。

しの:(笑いながら)いやね、俺はもう、「明日は君に会いに行くから」で、もうアルバムタイトルがそのままなんだけ

   ど…もう…折れてた。俺は。俺がやろうとした事じゃ…なんていうのかな、もう根本的に自分の音楽が人に好かれ

   るとも一番最初っから思ってないから、「明日は君に会いに行くから」でもう、聴いてくれた皆ごめん、ってい

   う。で、タイトルで俺が一方的に約束したというか。その約束を果たそうと思ってて。その明日がこのシングル

   で、果たそうと思ってたんだけどね…。一番なんか、曲書くの辞めたいなみたいな時だった気がする。「エスと自

   覚症状」とかでも、そういう事も歌ってるけど。この時インタビューとかで、『変わった』って言われて。鋭いイ

   ンタビュアーの人とかに『これは100パーセント自分の意思でこうやって変わったんですか?』って聞かれて。結

   構、色んな所でも聞かれたの。『99パーセント』で答えてたと思うの。『99パーセント自分です』って。けど唯

   一俺が1パーセント、その1パーセントってのは、心が折れてた時だね。なんだか分からないけれど。気持ちは嘘

   じゃないんだけど。なんかね、一番皆の為に歌おうって思ってた時なのよ。俺が歌いたい事はもう、言ったらその

   フルアルバム1枚目~3枚目で歌い尽くして、その前のミニアルバムで『あれ俺なんか失敗した?』ってなってて。

   この時は、もう完全に心がもう折れてるというかね。ある観点からみたら俺が心が折れてた方が良いのかもしんな

   いけど。聴きやすさとか。でも俺って…どうしてもカウンターカルチャーなものだと思うから、俺のやりたい事っ

   て。でも、カウンターカルチャーじゃないものをメジャーなり誰かが求めてる、それに応えるっていう意味では、

   俺が心折れてた方がいいんだろうなとも思ったシングルだった。キツかったね俺は。

後藤:「僕らのミュージック」は良い曲ですよ。

しの:俺、人生で唯一歌詞を他人の意向で変えたのこれだけだもん。変えたっていうか、ライブとかでやった時はそのま

   ま(当初書いた歌詞のまま)で歌ってたけど、虐待とかレイプっていう単語があったの。でもレコード会社的には

   それだと本当にダメだと。「参加賞」のPVもスペシャ流せなかったのね。NGだった。『スペースシャワーTVと

   してはこのPVは無理です』と。で、それと同じようになりたくなかったんだろうね、レコード会社も。だからもう

   『この歌詞変えてくれ』っていう。でも、俺が「何を歌うか」っていうのを大事にしてる人だってのを知ってくれ

   ている人達だったから、あんまりその、直接には言ってこなくって。『ここ別の表現無いかな?』みたいに、柔ら

   かく、ハッキリとは言わないような。だけど俺は察しちゃってて、ずっと悩んでて。

後藤:当然、メジャーシーンでNGになる表現って、ありますよね。

しの:レコーディング当日、直前でメンバー三人は待っててもらって、俺だけ呼び出されて。社長とディレクターと話し

   て『歌詞変えてくれないかな?』と。ほんと、ギリギリまで俺が変えなかったから。それで俺は『じゃあ変えた

   ら、俺は凄い嫌だけど、変えたら俺以外の聴いてくれるみんなも会社のみんなも、嬉しくなるんですか?』ってい

   聴いて。その時にディレクターの人が『なるよ』と。『絶対なるし、俺がそうしてみせる』みたいな事、言ってく

   れたんだよね。その一言聞いて、信じられなかったけど、信じようと。前の「明日は君に会いに行くから」でもう

   心が折れてるから、信じようと思って。もう信じる。信じよう。俺は周りの仲間も信じなくなったら、もう終わり

   だなと思って。くだらない意地は捨てる、って思って、『分かりました。歌詞変えます』って言って変えて。

後藤:純粋というか真っ直ぐというか。また、愚直に「やってみた」んですね?

しの:事務所もレコード会社も、このシングルに関して、凄く頑張ってくれて。でも、なんていうのかな…でも…未だに

   わかんないけど、本当にこれで皆は嬉しくなったのかな?っていう疑問がね。うまくいえないし、わかんないけ

   ど、ただ俺は、このシングルがずっと引っかかってた。まあ、ただ歌詞を変えたっていうことだけ。そんなの良く

   ある話だと思うんだよ。良くあると思うんだよ、歌詞を変えるなんて。でも、きっと誰かが俺らを好きじゃなくて

   も歌うし、誰にも望まれてなくても俺達はバンドやるんだって思って組んだバンドだったから。それだけが自分の

   心の支えだったっていうか。誰も好きじゃなくても良い、誰かの顔色はもう伺わないんだ、っていう気持ちでいた

   のに、自分の気持ちを全部捨てて、全部じゃないけど、でも自分の気持ちは置いておいて、誰かの気持ちだけを完

   全に優先した時のシングルだったから。まぁ、歌えなかったねその後。

後藤:歌えないっていうと?

しの:なんかね、具体的に言うと、何度演っても歌詞が飛ぶ。多分俺、歌詞をね、内容で覚えてるの。変な話だけど、違

   う言葉でも同じ事が伝わったら、例えば「を」が「は」になっても、同じ事が伝わったら、聴いている人が伝わっ

   たらそれでいいと思ってて。「俺の曲を一字一句記憶して一緒に歌ってね」、って気持ちじゃなくて、少なくとも

   俺が思ううちのバンド…っていうか、俺がしたいのは、気持ちのやり取りだから。聴いてくれた人が曲を覚えてな

   くてもいい。メロディーも覚えてなくてもいい。ただ、“どんな事歌ってたか”を覚えてて欲しいの、多分。曲なん

   か結局忘れちゃってもいい。聞いてる人が俺の曲を聞いて、何か、「自分も同じだったな」とか、「自分はそう思

   わないな」って自分と向き合って、その曲を聴いた後の人生を、俺が昔ロックと出逢った時がそうだったように、

   なんか自分の人生を好き勝手に、できれば笑って歩いて行って欲しい。あくまで音楽は、その人の人生ってやつの

   オマケで、主役じゃないから。

後藤:そうやって覚えてるから、歌えないと。

しの:まあ、っていうか歌詞覚えてないんだろうね。何を歌おうかってのだけ思ってる。思ったことを言いに来てるっ

   ていうか。で、歌詞柔らかい表現に変えた事によって、もう何の曲だっけって、わかんなくなっちゃって。記録し

   なかったから、忘れちゃって、どうしても変えた所がね、思い出せなくなったの、ライブで。歌うのが嫌とか以前

   に、思い出せない。それで「僕らのミュージック」っていうタイトルにしたんだよね。ある意味で皮肉っていう

   か、「これが今の俺の音楽なんだ」って。こんな俺でごめんなって気持ちで。

ガス:「僕らのミュージック」、そういう事なんだ、って今知った。でもなんかしのさんがしんどそうってのはやっぱり

   あったというか。この辺の曲もさ、ツアー中に機材車の中で、一人だけ残って作ったりしてなかったっけ?

しの:そうそう。

ガス:無理やりとかじゃなかっただろうけど。

しの:無理やりじゃないけどね。だったら書かない選択肢にしたと思

   うよ。でもね、この曲作れて良かったなぁと思う。この曲があ

   るから、自分で居られてるってのはあるよね。この曲で一回完

   璧に、完全に自分の気持ちなんてどうでも良い、って思ってし

   まおうっていう風に思ったから。誰かの為に、聴いてくれてる

   人の為に、究極はレコード会社の人の為に、で、本当にみんな

   が笑顔になるんなら、って。お前ら(メンバー)だったりとか。

   冬真だったりとか。聞いてくれた人とか。もう「自分以外の全部

   の皆が嬉らそれで俺は嬉しいって思えるわ」って。

   でも悔しいけど、単純に歌詞が覚えられなかったっていうだけ(笑)。向いてなかったんだね。だから、そういう

   意味では出して良かったっていう。この曲があるから、俺はもう転ばない。まぁ、この後ずっと倒れたままになっ

   ただけかもだけど。どっちが良かったのか未だに全然分からない。でも完全に「明日は君に会いに行くから」と

   「僕らのミュージック」で、一回死んだ感覚になった。信じてたものは、もう、この時にはもう、完全に折れた。

   でも俺がそんなに変わったってわけじゃないから。聴いてる方はあんまり分かんないと思うんだけど。

   どうなんだろう?

後藤:でも感じた人は感じたとは思います。自分がこのインタビューで、あえて4thフルアルバムに行かずにこのシング

   ルの話を挟んだのかと言うと、なんていうか、皆この曲にフォーカスを当てようとしないじゃないですか。避けた

   がるというか。

しの:そうね。

後藤:当時の有名誌のインタビューでも、正直に「このシングルで死んだ」と言ってたのもありますけど、メンバーもそ

   うだし、このシングル(と前作のミニアルバム)が埋もれがちになっていると思うのです。僕は結構、大事な時期

   だと思っているんですね。僕はリスナーに「一回死んだ感覚」は伝わっていたと思う上で、「僕らのミュージッ

   ク」は、個人としてはとても好きな曲です。でも、しのさんは手放しで『ありがとう』と言える曲ではないですよ

   ね。なのでファンの人達ももしかしたら『凄く好きなんです』って言う事が不安になる、もしかしたら失礼なん

   じゃないかなと思ってるかも知れません。

しの:そうだよね。言いにくいよね。言いにくかったと思う。

後藤:話題に上げづらい曲なんだと思うんですよ。でもだからこそ、この曲って、歴史が詰まってる曲だとも感じます。 しの:そうだと思うよ。実際。

後藤:僕は実際、ライブで一番聴きたい曲だったりします。ですが、一番リクエストしてはいけない曲なんじゃないかと

   も思ったりしています。

しの:ただでさえ、リクエストなんてしにくいバンドなのに、なおさらそう思うよね。

後藤:バンドの楽曲の中でも、最もタブーな1曲なのかも知れませんね。

しの:でも、歌った事は、あのとき一番…あの時、言いたかった事でもあるからね。いいも悪いも、清濁併せ呑んで、初

   めて音楽っていうか、現実っていうか。あの時の俺の本当の言葉だと思う、「僕らのミュージック」は。

 

 

【Que後藤による脚注】

 〇脚注1

 スペシャ:日本最大の音楽番組専門チャンネル「SPACE SHOWER TV」の事。

 

 〇脚注2

 流せなかった:放送できなかった、という事である。