晴れた日の教室 (MV)

思考停止 (MV)

響かない部屋 (MV)

※篠塚将行(しの),菅澤智史(ガス),琢磨章悟(しょ),栗原則雄(ノリ),Que 後藤瞬(後藤)の表記で進行します。

 

後藤このアルバムが、実質メジャー最後となる5thフルアルバム。このアルバムはノリオさんの骨折もありまして、

   楽曲ドラムパート片手でのレコーディングでしたね。

しの:骨折。

ノリ:しのくんの言う「記録」ってことですね。最初は色々考えたんだけど、しの君が「レコーディングは記録って事だ

   から、やりたいなら、そのまま片手でやったらいいんじゃない?」って話をしていて。それで『うん、じゃあ、そ

   うすっか!』って(笑)。

後藤前作のアルバムで『取り戻そう』としていましたね。そんな状況の中、ノリオさんの骨折もありましたが『取り戻

   すってこういう事だよね』といった意思の表れでもありますね。

しの:そう。その決意表明を試される出来事だったよね。勿論、ノリオが事故ったのは意図的ではないけどさ。でも、レ

   コード会社的にはレコーディングを伸ばす感じだったよね。

ガス:そうだったね。

しの:「もうアルバムのレコーディングを伸ばそう」って。要は、骨折が治るまで。レコーディングの直前だったから。

   全部飛ばして伸ばすしかないっていう感じの。俺らが「メジャー辞めたい」って言い出したのも重なって、会社は

   漠然とした諦めの空気になってて。でもさっきノリオが言ったみたいに『レコーディングは記録』だし、俺達がそ

   れで全然誰か的にダメなレコーディングをして、カッコ悪いって言われても、「別にそれって本当の俺達じゃない

   か」って。それは仕方がないじゃん。精一杯やってない訳じゃない、本当の俺達なら仕方がないよ、って。俺は

   ね、受け入れたかったの。ダメな自分を。「誰かに褒めてもらわなきゃ生きてちゃいけない」とかじゃなくて、

   ちゃんとしてなくて、ダメだめかもだけど、そんな自分をもう嫌いになりたくなかった。

ガス:本当にそう思う。

しの:ノリオ骨折してもしなくてもさ、それは、それでも世界が続くならに起こった本当のことじゃん。だから。『サ

   ポートのドラム入れる?』とかの話も出たけど、もう満場一致で「ノリオ以外のドラムでやる気は無いです」っ

   て。なんでそんなこと言うんだろうとすら思った。何が正解かはわかんないけど、「ノリオが居なくてもそれでも

   世界が続くなら」、って、それ今ここにいるノリオに失礼だって思ったし、「テセウスの船」のパラドックスじゃ

   ないけど。ただ、この時は、骨折したまま行こうって。結果的に、自分達をやっと取り戻したアルバムだった。

後藤一回死んだからこそ、戻れたのですかね。

しの:うん。そうだと思う。なんか俺、純粋な人って危ないと思ってるから。何かの拍子に誰かに…例えば生まれてから

   一度も怒ったことが無い人とか、たまにそういうこという人いるじゃん? たぶんそれ、幸せしか感じた事が無い

   人なんだろうね。でも居るんでしょ、ずっと幸せだった人も。あんまり苦しい事もなくてさ。勿論、その人の尺度

   で苦しい事がきっとあるだろうけどさ。でもそういう人がさ、本当に苦しい事にあった時、今まで『私は絶対誰も

   裏切らないよ』って言ってたその子が、一度も怒った事が無いその子が、何かに踏みにじられた時にさ、その優し

   さってのは余裕があったから出来たことで、多分、その自分のあまりの苦しさに周りに当たり散らしたりしてしま

   うと思う。裏切っってしまうこともあると思うの、人間だから。あるかも知れないじゃん。ある意味で、俺達もそ

   うだと思うの。メジャーだったり音楽だったり。バンドってのが知らなかったから。純粋だったと思うの。純粋

   だったから、やっぱり信じてメジャーでやって、自分に関わってくれた人の事信頼して、一回全部やってみようっ

   てなって、その果てに、自分の心が死んで、わけわかんなくなって。もし、もっかい取り戻せたら、次は絶対誰の

   事も裏切らない人になれる、ってのは思ってた。ノリオ骨折して、もし4人でここでもっかいアルバム作れたら、

   もしかしたら俺達ほんとに、なんか、自分たちが好きだった人とか、ああいう人に近づけるのかなって思った。

   やってる事は真逆かも知れないけどさ。

後藤でも、分かりますよ。

しの:単純に演奏的にはノリオ片手だし、ノリオは本当キツかったと思うよ、気持ち的にも。俺はもう勝手に覚悟は決め

   てたけどね。今レコーディングしたら、好きだって言ってくれた人も嫌いになるかも知れない位危ない賭けだ、っ

   ていうのは分かってたから。そういう意味では、嫌われる覚悟を本当の意味で初めて持てたアルバムだった。もう

   ずっと1stアルバム作る感覚。

後藤5thは、サウンド面では最もオルタナティブな一枚ですよね。

しの:でも、なんか戻って来た感じだよ。それこそインディーズ1st、2ndの時にやってたような、ちょっと『何そのデ

   カい音のギター』みたいな。

後藤それを、メジャーシーンでやった事がすごいです。イエローモンキーの事務所とクラウンからこれを出したのがす

   ごい。片手ドラムも含めて、日本の音楽史に残るアルバムだと思います。

しの:このアルバムを出した時に、このバンドが解散しても「このアルバムを出した」っていう、この事実だけで、俺は

   何か爪痕残したなって思えたアルバムだったよ。

後藤明らかに前作までのアルバムと比べても、整理されてないノイズ音が入っていたりしますよね。

しの:ね。綺麗な音じゃなきゃいけないとか、ドラム骨折してるからサポート入れなきゃいけないとか、そういうの

   じゃなくて、ある意味ロックバンド然としての誠実さというか。ドラム骨折してたって、バスドラしか踏めなく

   たって、それが今の俺達のバンドで、でもやっぱりノリオのドラムで歌うし。ロックバンドとしても、友達として

   もだし、一番誠実な形をやっぱやりたかったんだよね。だから、そのまま出来るだけ、汚い音も残して。

   歌も普通の57で。

後藤それとですね、インディーズの頃、2ndフルアルバムから「自殺志願者とプラットホーム」が収録されています。

   再録ですね。

しの:これは、ただ歌いたかったのよ。

ガス:ライブでこのアレンジでやってたんだっけ?

しの:ちょっとやってた。

後藤アレンジが2ndと全く違いますね。

しの:単純にこのアルバムに、この時出してた音に合うようにって感

   じ。もう一回、同じように録ってもしょうがないかもな、って

   いうね。実験みたいなものっていうか、消費される音楽はやって

   ないつもりだったから、こんな曲があるって知ってくれて、前

   の2ndに戻るきっかけになればいいなって。この曲、まだ全然

   歌っていたい曲なんだ。

後藤このアルバムくらいからガースー君のギターの音が変わった気がします。

ガス:ここからやっと自分のやりたいことを確立した。この次のアルバムからは、ガラッと変わったし。

しの:このアルバムからだよね、菅澤の音って。ヴァイオリンっていうかその鍵盤だったりみたいなリヴァーヴ音。『も

   うギターって、ギターの音じゃなくても良くない?』っ菅澤が言い出して。

ガス:そうそう。ギターってもっと可能性のある楽器だと思う。

しの:歪んだファズギターをもともと俺がやってたから。自殺的ノイズギターとか言われてたけど、やっぱり菅澤は別の

   ところに行きたかったんだろうね。

ガス:この頃に、シガーロスの影響を受けてたってのもあるけどね。

しょ:え、あれをギターだけでやろうとしたんだ。(笑)

 

 

【Que後藤による脚注】

〇脚注1

 全楽曲ドラムパート片手:ドラムは楽器の中でも特に「体全てを使う楽器」とされている。スタンダードなのは右手で

             リズムを刻み左手でスネア(一番キーの高い太鼓の事)を叩くプレイスタイル。その作業

             を片手でやるのは至難を極めている。パンを食べながら走りながら学校に向かうと必ず曲が

             り角で誰かとぶつかるじゃないですか。それです。

 

〇脚注2

 レコーディングを伸ばそう:レコーディングする日程を延期しよう、という事。

 

〇脚注3

 「テセウスの船」のパラドックス:ある船の部品を入れ替えて、再び完成した時にその船は以前と同じ船なのか、とい

                 う考え。『ある物体の全ての構成要素が置き換えられた時、基本的に同じであると

                 言えるのか』という問題の事。

 

〇脚注4

 イエローモンキー:ロックバンドTHE YELLOW MONKEY。多くの人を魅了し続ける。説明要らずでカッコいい。

 

〇脚注5

 クラウン:日本クラウン株式会社 クラウンレコード。

 

〇脚注6

 57:マイクの型の事。

 

〇脚注7

 シガーロス:シガー・ロス。アイスランドのポストロックバンド。超絶カッコいい。